
「ん?ドラゴンがどこに居るかだと?」
赤くて重厚かつ値段の高そうな服を着た宿屋の親父は、さももったいぶった言い回しで返事をした。
私はその返事に、ひどく落胆させられた。
それは幾度と無く、あらゆる人に問いかけたうちの、ごくありふれた回答だったからだ。
次に来る言葉は決まっている。ドラゴンなんて、居やしないよ。架空の生物さ。に違いない。
「ドラゴンなんか居るわけ無いじゃないか。第一、そんなのが居たら、今頃この店なんかとっくに燃えちまってるよ。ドラゴンの炎でな。」
と、自慢の金髪を撫で付けながら、幾千の論客を打ち負かした弁士のように、そのいけ好かない親父は勝ち誇ったように話した。
ほら、やっぱりだ。
第一、この親父は気に食わない。人を馬鹿にしくさった口調をしやがって。しかも、世間知らずの馬鹿野郎がまだ居たのか、そして青臭いぜガキが。
という奴の思考が簡単に読み取れる。
ドラゴンは、絶対に居るはずだ。この世界のどこかに。
巨大なトカゲの姿をしており、
その目はこの世の全てを見通すように赤々とした光を放ち、
その口は細かいノコギリのような歯がびっしりと生えていてあらゆるものを食いちぎり、
口から出る炎は、すべてを焼き尽くし、
その牙はどんな生き物の急所でも一撃で貫くき、
その爪は、いかなる鎧をも簡単に引き裂き、
その巨大な尻尾は、あらゆる建物を一瞬で叩き壊す。
奴は金色に光り輝く宝物の上に横たわり、じっと自らの寝床を守り続けている。
そしてたまに訪れる招かれざる来訪者には、人の心を狂わせる言葉を吐き、灼熱の炎で排除する。
そうして奴は生きているに違いない。
何十年、何百年、何千年と。
同じ時を繰り返し、繰り返し、
奴はひたすら待ち続けるのだ。
史上最強の生物。それがドラゴンだ。
地上のあらゆる生物の力を凌駕し、
地上のあらゆる生物より賢く、
地上のあらゆる生物より最も悪である。
だがしかし、賢者にて、最もこの世を上手く渡り歩いている宿屋の親父の御高説によれば、
「そんなもの常識的に居やしねえよ」
との事だ。
しかし、それでも、きっと、この世界のどこかに居るはずだ。
必ず…
時は過ぎ行く。
たとえ、孤独が私を支配しようとも、
そんな事はお構い無しに、時は過ぎ行く。
何も変哲の無い日常を繰り返しながら。

身に増える皺におびえ、
衰える体力に嘆き、
それでも時は無情なり。
栄光の時は、いずれ来るのだろうか。
いや、繁栄、栄華、すべては私にとっては無縁のもの。
ただ、孤独に年老いて、死に行く定め。
世界はつまらない。
そう、退屈極まりない。
生きること自体、取るに足らない事だ。
かつての、賑やかな人達の集まりさえ、
私はもう手に入れることの出来ない遠い存在となっている。
そして私は、その賑やかさをもう一度と、求め彷徨っているのかもしれない。
そんな自殺してしまいそうな、くだらない考えを行いながらも、うだるような、あの真夏は過ぎた。
じっとりと汗ばみながら、ひたすら働いたあの夏。
半袖で過ごしてもなお暑かったあの夏。
野外で日焼けに勤しんだあの夏。
自転車で駆け回ったあの夏。
しかし夏は終わったのだ。
もう半袖を着る季節は終わったのだ。
長袖を着なければならない。
冬になれば、長袖どころではないだろう。
だがしかし、あえて、私は鎧を着よう。
あらゆる困難と、あらゆる攻撃を防ぐ最強の鎧を。
そして、戦おうではないか、
あらゆる困難と、あらゆる敵を倒す最強の剣で。
いかにその結末が孤独に終わろうとも。
いかに徒労に終わろうとも。
いかに生きることに絶望しようとも。
私は最強の鎧を着、最強の剣で立ち向かう。
そして旅立とう、世界へと。

たとえ、孤独が私を支配しようとも、
そんな事はお構い無しに、時は過ぎ行く。
何も変哲の無い日常を繰り返しながら。

身に増える皺におびえ、
衰える体力に嘆き、
それでも時は無情なり。
栄光の時は、いずれ来るのだろうか。
いや、繁栄、栄華、すべては私にとっては無縁のもの。
ただ、孤独に年老いて、死に行く定め。
世界はつまらない。
そう、退屈極まりない。
生きること自体、取るに足らない事だ。
かつての、賑やかな人達の集まりさえ、
私はもう手に入れることの出来ない遠い存在となっている。
そして私は、その賑やかさをもう一度と、求め彷徨っているのかもしれない。
そんな自殺してしまいそうな、くだらない考えを行いながらも、うだるような、あの真夏は過ぎた。
じっとりと汗ばみながら、ひたすら働いたあの夏。
半袖で過ごしてもなお暑かったあの夏。
野外で日焼けに勤しんだあの夏。
自転車で駆け回ったあの夏。
しかし夏は終わったのだ。
もう半袖を着る季節は終わったのだ。
長袖を着なければならない。
冬になれば、長袖どころではないだろう。
だがしかし、あえて、私は鎧を着よう。
あらゆる困難と、あらゆる攻撃を防ぐ最強の鎧を。
そして、戦おうではないか、
あらゆる困難と、あらゆる敵を倒す最強の剣で。
いかにその結末が孤独に終わろうとも。
いかに徒労に終わろうとも。
いかに生きることに絶望しようとも。
私は最強の鎧を着、最強の剣で立ち向かう。
そして旅立とう、世界へと。


私は闇夜を歩いていた。
天井の空には太陽は無く、
無数の星々のきらめきが、ただ蛍の光よりもはっきりと、くっきりと、現れていた。
星達の世界の中に、とてつもなく大きな星があった。
月だ。
月は、下のほうから光を当てられたボールのように輝いており、
そう、
三日月だ。
月は、私の目には、ぼやけて見えた。
まるで涙に滲んだ視界に映ったかのごとく、
儚く、そして美しく。
空を一通り見渡した私は、ここが森の中であることに気が付いた。
周囲はうっそうと茂る木々に囲まれ、夜の闇をさらに一層深く感じさせる。
それらの木は、静かに呼吸をするかのように、夜風に木の葉を揺らせ、ただ、時が過ぎるのを神妙に、そして穏やかに、過ごしているかのようだった。
私の周囲には、この静かに息づく森以外、だれも居ないようだった。
いや、人間だけではなく、生ける者自体の気配を感じない。
それは実に奇妙な静寂であった。
しかし、この森にとっては、この静寂こそ平穏なる日々に違いないのだ。
それにしても、なぜ私がこんな真夜中に歩いているかだって?
そんなこと、俺が知りたいくらいだ。
特に目的は無い。
ただ、この世界を歩き回るだけの、放浪者だ。
おそらく、私のこの旅には、特にゴールは無いだろう。
そんなことを考えているうちに、どうやら夜が明けたようだ。

私は、帝都を出て、東へと向かう。
そこで待つのは何もないと、わかっていても、
それこそが、旅に違いないのだから。
| HOME |